ミランダ旧市街全景 2016年9月 地図

ミランダの存在を知ったのは、モリーゼ州のイゼルニアからペスケに向かって歩いていたときのことだった。郊外に出て開けた風景を眺めていると、遠くに見える山並みの向こうにちょっと気になるものが目が入った。
 緑に覆われた山々の間から、頂上付近が白っぽい丘が見えたのである。石灰岩の採掘場でもあるのかと思ったが、目をこらすと建物が並んでいるようにも見えなくはない。カメラのズームレンズで覗いてみると、なんとそれは丘の上に密集した家々だったのだ。



▼イゼルニアの郊外から見たミランダ。望遠レンズを通して見てはじめて、人が住んでいる町だとわかった。 2016/09 ミランダの遠景

こぼれ落ちそうに見える家々 ▲ミランダ行きのバスの車内から。家が丘からこぼれ落ちそうに連なっている。 2016/09



たまたま近くで落ち葉の清掃していた若い男性がいた。国道に並行した道で、散歩やジョギング、サイクリングの人がときどき通りすぎる道である。イゼルニア市の名前が入った制服を着た彼に尋ねると、「あれはミランダという町だよ」と教えてくれた。
 それにしても遠目にも不思議な光景だった。ぽっかりと突き出した丘の上に密集している家々は、大雨や地震でもあったらすぐに崩れ落ちそうに見える。興味をそそられたので、ペスケから帰ったら立ち寄ってみようと考えた。



ミランたの旧市街 ▲バスを降りて、ミランダの旧市街を進む。坂道の両側には、カラフルな家が建ち並んでいる。
2016/09


ペスケからイゼルニア駅前に戻ったのが午後1時半ごろ。ミランダにはタクシーで行くしかないと考えたが、調べてみると1日3本のバス便があり、2時のバスに乗れば、現地に2時間ほど滞在して夕方に帰れることがわかった。
 昼過ぎの駅前バスターミナル……というより単なるバス溜まりは、学校帰りの中高生であふれていた。南イタリアの例にもれず、乗り場や行き先の案内などどこにもない。近くにいる学生に、「ミランダに行くバスはどこから乗ればいい?」と聞き回って、無事に乗り込むことができた。



西側の丘から見たミランダの町 ▲西側の丘の上にある城跡から眺めた町の先端部。
2016/09


バスはしばらく平原を走っていくが、10分ほどしたところで急に山道に入る。飽きるほどヘアピンカーブを曲がった先に、丘から突き出した異様な家並みが見えてきた。ミランダは、山あいに開けた狭い平地の上に広がっていた。驚いたのは、そのカラフルな家々である。周囲の緑に囲まれてそこだけが別世界のようだ。
 バス通りから離れると、特に観光地というわけではないのだが、道はきれいに清掃され、家々の前には花が飾ってある。町全体を俯瞰できる場所が何か所かあるのだが、そこにはベンチが置かれて、ちょっとした展望台のようになっていた。



下界に見えるのはイゼルニアの町 ▲遠くにイゼルニアの町が見える。
2016/09


町の西側にはノルマン様式の城があることから、この町は11世紀ごろに要塞として開発されたのだろうという。その後は、いくつかの貴族によって統治されてきたのだそうだ。
 昼過ぎの時間だったからか、町を歩く人にはほとんど出会わなかったが、落ち着いた品のある町という印象である。

 ところが、町を一周してバス停近くのバールに入って驚いた。そこはまさにおじさん天国だったのだ。30人ほどの客は、すべて中高年男性。町全体のおじさんが全員集合したかのような賑わいだった。
 もちろんおしゃべりに余念のないグループがあるかと思うと、店内でカードゲームに熱中する人たちあり、そのまわりでああだこうだという人あり、手持ちぶさたにしている人たちもいた。



▼東側の丘から眺めたドゥオーモ付近の旧市街。山の中に突如として密集した市街地が現れるのが不思議。 2016/09 ミランダのドゥオーモ

旧市街の家並み ▲旧市街を歩く老紳士の後ろ姿。 2016/09


それにしても異様なまでの賑わいである。その理由は、カウンターでコーヒー待ちをしていたときにわかったような気がした。店のお姉さんがとても愛想よく、屈託のない笑顔が素敵なのだ。私の前にコーヒーを注文した高齢男性は、コーヒーにアニスのリキュール(ウーゾ)をほんのわずか入れてくれという。お姉さんがリキュールの瓶を傾けながら、笑顔で「このくらい、もう少し?」と聞くと、彼はこれまた満面の笑顔で「もう少し、もうちょっと、よーし」と答える。その2人の笑顔を見ただけで、この店の繁盛の理由が理解できた。



ミランダ旧市街で出会ったネコ ▲車が通らない階段路地はネコの天国だ。
2016/09


店でのんびりしていると、一人の男性が、「いい眺めの場所を案内しよう」と言う。歩いてきたばかりなので、お断りしたいところだが、せっかくの厚意である。足がやや悪い彼の後をついていくと、私が見た展望台とは違って、どこかの私有地にずんずんと入っていく。
「どうだ、いい眺めだろう」と自慢げにいうので、「確かに!」と答えて、にっこりと微笑みを返した。

 それにしても不思議なのは、ペスケにしてもミランダにしても、大昔にどうやって山の上まで資材を運んだのか。
 翌朝、駅まで車で送ってくれるというイゼルニアのB&Bの主人に尋ねた。
「そうなんだよ。不思議だよねえ。どうやってつくったんだろう」
 地元の人もわからないようだった。


●所在地
モリーゼ州イゼルニア県
●公共交通での行き方
・イゼルニア駅前からSATI社のバス(48系統)で20分。1日3往復。
・イゼルニアへは、ローマ、ナポリから鉄道、バスの便あり。
●見どころ
・山あいに密集するカラフルな町並み
●老婆心ながら
バスは1日3往復だが、昼と夕方に走っているので、イゼルニアからバスで訪れても十分に滞在時間がとれる。

中心部のバールにて

2024年10月公開


ミランダ写真ギャラリー

ミランダを発車するバス ミランダのドゥオーモ ミランダ旧市街を望む
ミランダ旧市街を望む ローマ時代の石碑 放置されたランブロ550
ミランダのバール バールから帰宅する人びと バール前のネコ

■トップページ「イタリア町めぐり」表紙■

Copyright © FUTAMURA Takashi