下十条の木造国電 (1975年3月)
当時、あちこちの車両基地を訪ねてみると、その隅には古典的な車両を改造した事業用車や不思議な廃車体が置かれていたものだった。京浜東北線東十条駅に隣接した下十条電車区もそうだった。
この近くの公道を歩いてたとき、なんと左(小画面では上)の写真のような光景が目に入ったのだ。車両番号はクエ9112と読めた。「エ」は救援車を示す。当時すでに稀少になっていた木造電車であることは、側面を見ればわかる。
これは見逃すわけにはいかないと、ちょっと失礼してこの車両だけ撮らせてもらうことにした。「救援車」という種別板を掲げられている。しかし、この非貫通側の正面は、向かって左側と中央の窓ガラスが割れていたのか、板でふさがれているのが残念だった。
反対側には貫通扉がついている。斜めに補強材が入っているが、美しい正面である。こちらが北向きだったので日陰になっている。
ネット情報によると、国鉄の前身である戦前の鉄道省時代のクハ15形から改造されたとのこと。さらにもとをたどると、大正時代に製造されたデハ23形なのだそうだ。
光があたっている部分は、木造電車らしい板の継ぎ目がよくわかる。
このクエ9112は、国鉄に在籍した最後の木造電車となったそうだ。この写真を撮ったときには、すでに動いていなかったようだが、正式に廃車となったのは1977年。今だったら博物館に保存されてもおかしくない車両だったが、そのまま解体されてしまった。
右の車両は、同じときに下十条電車区で撮影したクモヤ90 005。戦後に大量に誕生した73系(72系)電車を改造した車両だ。
2020年11月公開
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