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イタリア町めぐり

サント・ステーファノ・ディ・セッサーニオ遠景 2006年10月 地図


 サント・ステーファノ・ディ・セッサーニオ(セッサーニョ)は、アブルッツォ州の州都ラクイラ(ラークイラ)からバスで約45分。主要街道から山道に入り、車窓の両側にのどかな山々が現れると、まもなくこの小さな村の入口に着く。

 上の写真でもわかるように、小さな丘の上に築かれた村の頂上には、まるでチェスで使われる城の駒そのものの形をした塔──「メディチの塔」が建っている。いや、建って”いた”というのが正確だろう。残念ながら。
 ラクイラの町の紹介でも触れたように、2009年4月6日未明に発生したマグニチュード6.3の地震によって、この村にも甚大な被害が発生し、高さ18mの塔も倒壊してしまった。
 幸いなことに、ここでは犠牲者がでなかったものの、地震直後のイタリアのニュース番組では、村が瓦礫だらけになっている様子が放映されていた。


メディチの塔(Torre medicea)の上から、村の北東方向(カラッショ方面)を望む。

2006.10

メディチの塔からの眺め



 この村を訪れたのは、ラクイラからカステル・デル・モンテに行った帰りである。カステル・デル・モンテといっても、世界遺産の城があるプーリア州の町ではなく、アブルッツォ州の山懐にある山岳都市である。
 路線バスの終点がカステル・デル・モンテであり、そこから山道をだらだらと8kmほど下ってラクイラ方面に戻ったところに、このサント・ステーファノ・ディ・セッサーニオがある。
 山道といってもしっかりと舗装がしてあって、歩くのには困らない。しかも、途中の町(カラッショ)までの3kmほどは地元の人の車に乗せてもらったものだから、かなり楽をした。

 晩秋ののどかな昼下がり、山道をゆく自動車は5分に1台程度。高原の涼やかな風が吹き抜けるなか、気分よくハイキングを楽しんだのであった。


村のなかの眺め

昔ながらの家々が軒を連ねる。人口減少とともに空き家となっている家も少なくないようだ。

2006.10


階段路地を歩いていると、小さな小さな広場に、こんな素敵なデザインが隠れていた

2006.10

小さな広場


 このあたりは、すでに森林限界を越えているのか、山には草や灌木が繁っている程度で、高い木もないために、遠目にははげ山のようにも見える。

 さて、いよいよサント・ステーファノ・ディ・セッサーニオの町が見えてきたところ(トップの写真を撮ったあたり)で、一台の車が私を追い越した後、20mほど先で停まった。
 その車に追いつくと、車上には50歳前後の夫婦が乗っていた。
「乗っていく?」
 アブルッツォの人たちは、旅行者に本当に親切だということを、このときの旅でつくづく味わうことができた。
「ありがとうございます。でも、あそこに行くもんで」
 私は丁重にお礼を述べて、行く手に見える村を指さした。
「ああ、もうほとんど着いているんだ。じゃあね」
 自動車は静かに発進していった。


背後に広がる畑

丘上にある村の中心部から、背後に広がる農地を臨む。

2006.10


上の写真を逆から見たところ。トップの写真でいうと、右側から撮影している。バスを待つ間に撮った1枚。

2006.10

旧市街の眺め



 どこか高揚した気分で到着したこの村は、イタリア版ウィキペディアによれば2011年現在の人口はわずか111人。ただ、1901年には1500人近い人口があったらしく、立派な丘上都市を形作っている。
 着いたのは午後3時ごろだったので、村のなかではほとんど人と出会うことなく終わってしまった。すれ違ったのは、村はずれの農家のおじさん一人(下から2枚目の写真)と、帰りのバスを待っていたときに歩いてきたおばさん3人連れだけであった。観光客も見かけなかった。

 坂道だらけの小さな村をぐるぐるめぐっていると、いつのまにか塔にたどりついた。管理人らしき人はいなかったが、塔のなかへの通路は開いており、しかも内部に沿って階段が設けられているのが見えた。
 さすがに、長い距離を歩いたうえに、町の坂道を上下した直後だったから、足はがくがくになっていたが、この塔を登らずに帰るわけにはいかない。


村はずれの様子

村はずれの道まで歩いていくと、ようやく初めての村人に出会うことができた。塔の形が素敵。

2006.10



 塔の頂上から周囲を眺めていたのは20分ほどだったろうか。まさに至福の時間であった。そのとき撮ったうちの1枚が、上から2枚目の写真である。
 ふと我に返ってみると、はるか日本からやってきて、今この小さな村に一人でいるという事実が、なんとも不思議に感じられたものだった。
 一人旅というのは、感動を分かち合える人がそばにいないために寂しいこともあるけれど、こんな感情に襲われるのが、たまらなく心に染みるのである。

 早めにバス停に着いてぼんやりとしていると、カステル・デル・モンテ行きの下りバスからドイツ人のグループが降りてきた。折り返し便に私が乗る予定のバスである。彼らは、この村に泊まるのか、それとも夜のバスでラクイラに帰るのか。いずれにしても、ドイツ人はあなどれない。

 はたして、イタリアでもっとも美しい塔とも言われていたこの塔が、再建される日は来るのだろうか。再建されたときには、ぜひもう一度訪ねてみたい場所である。


●所在地
アブルッツォ州ラクイラ県
●公共交通での行き方
・ラクイラからARPA社のカステル・デル・モンテ行きのバスで45分。1日5往復。
・ラクイラへは、ローマ・ティブルテーナ駅前の長距離バスターミナルからARPA社のバスで1時間40分。
・ラクイラへ、ローマ、ペスカーラからイタリア鉄道で行く場合はスルモーナで乗り換え。
●見どころ
・塔を中心に広がるのどかな村。
・アブルッツォの高原が見渡せるパノラマ。

●老婆心ながら
本文で書いたように、2009年の地震で塔は倒壊してしまった。再建を目指しているとのことだが、費用が億円単位でかかるとのことで、2015年現在まだ具体化していない。
ネコちゃん 町はずれでは、こんなネコちゃんにも出会った。アブルッツォの山々をバックに、ちょっぴりすまし顔。 2006.10
2015年2月作成

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