イタリア半島を長靴にたとえるとき、そのかかとに当たるのがサレント半島だ。2008年の秋、その中心都市レッチェに宿をとって、サレント半島のいくつかの町をめぐることにした。レッチェ到着の翌日に向かったのが、このガッリーポリである。
地名の由来は、「美しい町」を意味するギリシャ語の「カリポリス」から。「ボリス」は、アテネのアクロポリス(「上の町」の意味)でよく知られているように「町」のこと。「カリ」は、ギリシャ語の「おはようございます」に当たる「カリメーラ」(「よい日」という意味)から連想できる。つまり、「よい町」「美しい町」という意味になるわけだ。
レッチェ中央駅を9時43分に発車する私鉄スドゥエスト鉄道(南東鉄道)の旧型ディーゼルカーに乗って約1時間。終点のガッリーポリに到着した。サレント半島の重要都市を結ぶこの鉄道は、路線によって1時間おきから2時間おきと間隔が開いているため、かなり使いにくいように見えるが、乗り換え駅での接続がうまく考えられていて、不便を感じさせない。
11月のイタリアというと、マルテンポといわれる嵐に代表されるように、天候不順の日が多い。前日夜に到着したレッチェでも冷たい雨の洗礼を受けたのだが、この日は写真でもわかるように陽の光がさんさんと降り注ぐ南イタリアらしい天気に恵まれた。
もっとも、前日まではこちらもかなりの寒さだったようで、運がよかったといえよう。新市街にあるガッリーポリ駅から10分ほど歩くと、新市街と旧市街の島とを結ぶ至るセイチェンテスコ橋(1600年代橋)に出る。
その橋のたもとから旧市街の島を向いて撮ったのが3枚目の写真だ。岸壁では漁師のおじさんたちが網の手入れをしていたので写真を撮らせてもらった。こんなとき、たいがいのイタリア人は必要以上のサービス精神を見せてポーズをとってくれることが多いのだが、この人たちは私に視線をちょっとくれただけで、歓迎するでもなく拒否するでもなく黙々と作業を続けていた。
そして、新市街から旧市街に向かう道沿いには、この近海で獲れた新鮮な海の幸を売る店が並んでいたのである。
橋をわたって訪れた旧市街は、まさに「美しい町」というイメージがぴったり。島全体が旧市街になっているのは、シチリアの南東にあるシラクーザと共通している。
訪れたのが観光シーズンを外れていたからかもしれないが、シラクーザよりもさらにおっとりとしている印象だ。ふと、「こんなところに部屋を借りて3カ月くらい過ごしてみるのもいいな」と思ったものである。新鮮な魚介類は食べられるし、あとはインターネットの高速回線さえあればOKだ……もちろんカネとヒマも必要になるのは言うまでもないが。
狭い路地を歩いているうちに方向がわからなくなるが、旧市街である島の広さは、せいぜい400m四方といったところ。うろうろ歩いているうちに海岸に出る。そうしたら、太陽の位置を見れば方角がわかるという寸法だ。
さて、さんざん町を歩いたところで腹が減ってきたので、昼食をとることにした。オフシーズンで閉まっている店が多いなか、駅からやって来る途中で目についた橋のたもとのレストラン「Marechiaro」に突入。
そこで魚介づくしを選んだ。いくらウマくてもイタリアの魚料理は、日本にかなわないというのが相場だが、運ばれてきた前菜の「貝の盛り合わせ」に驚いた。カキはもちろん、ムール貝からアサリのような二枚貝、さらには初めて見た巻き貝まで、7、8種類の貝がすべて生なのだ!
今だったら、「こんなに生の貝を食っても大丈夫だろうか。しかも、二枚貝の生なんて!」と10秒ほど逡巡するところだが、当時はまだまだ恐いもの知らずだった。逡巡したのは2、3秒ほどで、すぐにナイフとフォークをつかんでいた。
貝を口に運ぶと、それはそれはほんのりと上品な潮の香り。新鮮で、まったく臭みがなく、ぎゅっと引き締まった濃い味であった。11月だったから食べられたのかもしれない。また行って食べることができるだろうか。体調を万全にしてガッリーポリを再訪したい。